3年目の世界文学全集への挑戦

40代既婚の男がふと思い立って世界文学全集に挑んでいます

語り伝えることと書き残すこと

 「群衆心理」という記事に書いたように、『誰がために鐘は鳴る』では、ある登場人物が経験した凄惨な場面について語る箇所があります。スペイン内戦の中で一方の側の人たちがもう一方の側の人たちに対して行ったことで、それは語った人物の属する側の人たちが行ったことです。語った人物は、熱狂的になった人たちが残虐な行いをしている渦中にあっても、流されず状況を心に刻んでいたようです。

 その話を聞いた主人公の心の中の声がその後に続きます。主人公は同じ側に属する者として、その残虐な行いをほかの人たちがしたこととしてではなく自分たちの問題として受け止めたようです。そのことを書き残す必要があるとも考えたようで、そういう話を聞いたのはヘミングウェイ自らの経験だったのではないかと思います。

 自分の過ちや弱さを認めることは難しいことです。ですけれども、認めることができれば考えと行いを改めることへの道が開かれると思います。個人であれば、人に言わずに変われば足りるかもしれませんが、集団の場合は、語り伝えたり、書き残したり、というように何らかの形で表現して共有することが過ちを繰り返さないために必要になりそうです。

 自分たちの過ちを認めることに加えて、言葉にすることも大切である、と考えさせてもらいました。