巧みな舞台設定
『谷間のゆり』の背景となっている時期は、前にも書いたとおり、革命とナポレオンによる統治の後の王政復古の時代です。この大きな変化の時代が作品の舞台として巧みに用いられています。
主人公は貴族であり、政治的に強い思想を持っているわけではなさそうですので、自然に王の側の者として行動しているようです。周りの人たちにはもっと王党派的な人がいるようで、その人たちからの助けも得られます。そのようにして、時代の波に乗っていけるような様子です。
しかしながら、このように動きの激しい時期には、突然立場が変わってしまうことも多くありそうです。主人公には共和派に親しい人がいるようには見えませんので、それがどのように影響するかが気になります。もしかしたらこの作品の中では全く問題にならないのかもしれませんが。
貴族を主人公としたこういった小説が同時代の人たちからどのように受け止められたのかが興味深いと思います。